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令和2年(2020年)3月10日 参議院予算委員会公聴会が開催されました。今回は「新型コロナウイルスが内政に与える影響について」、株式会社第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 熊野英生氏、全国労働組合総連合事務局長 野村幸裕氏の2名を公述人としてお迎えし、意見を聞きました。のちに、公述人に対し質疑を行っています。
なお、正式な議事録については、国会会議録検索システム(国立国会図書館HP)をご参照ください。
山田
熊野先生、野村先生には大変分かりやすいプレゼンテーション、ありがとうございました。
昨日は、原油価格の低下もあって株価が下がるなど、コロナウイルスの影響が経済全般に及んでいると思います。
私の地元、石川県でも工場を二週間ぐらい閉鎖する企業が出たり、また、小松空港ではアジアの国際便もあるのですが、ほとんど止まっている状況です。それから、伝えられるところでは、春闘の労使交渉の日程も決められないという、本当に様々な影響が出ています。
こういった影響、過度に不安になっている、過度な対応をしていることもあるのではないかと思うのです。
先ほど野村先生からは「漠然とした不安」という話があったが、不安を解消するためには正確な情報の迅速な提供が重要だと思うのです。特に、今ある対応について、必要な情報、こういう情報があったら、過度に不安に陥ることなく対応できるのではないか、ということについて、お二人にお伺いをしたいと思います。
熊野先生の雑誌での記述「金融財政ビジネス」を見ましたが、その中で、普通のインフルエンザに比べて新型コロナウイルスに過剰な警戒感があるのではないか、これは実情が分かっていないからなのではないか、という記述があったのですが、そのためには正しい情報を伝えていくことも大事かと思います。
野村先生に対しては、今ほど様々な不安があるということでしたが、それを解消していくための情報の提供、必要な情報もあると思うので、この情報についてお伺いしたいと思います。
株式会社第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 熊野英生氏
少し遠いところからの例え話をすると、不確実、先が見えないというのは、実はこの10年、リーマン・ショック以降日本を覆っている、そういう非常に悪影響をもたらすファクターだと思っています。
一番象徴的な例はリーマン・ショックのときです。金融の世界の話をして恐縮ですが、リーマン・ショックの前にサブプライムローン問題があって、住宅ローンの質が悪いものがどんどん破綻して、破綻するかもしれないグレー債権だった。アメリカに投資銀行など非常にグローバルな金融機関がありますが、証券化商品を持っていて、その中にサブプライムローンが組み込まれていたのですが、その組み込み方がブラックボックスだった。リーマン・ショックが起こったときは、金融市場では、証券化商品を一つでも持っていたら損失がどこまであるか分からない。つまり、中身が分からないものを持っていることに対する不安が金融市場を麻痺させて、短期金融市場取引は停止し、金利が付いたとしても10%あるいはそれを超えるような金利だった。つまり、中身が分からないものを持っている金融機関は皆不安だと思われました。
これは、実は今の新型コロナの話と同じで、感染者が1人出ていても500人いても、両方とも同様の自粛をやる。
リーマン・ショックがその不確実性からどうやって脱却したか。これはストレステストという、専門用語で恐縮なのですが、金融機関の健全化チェックですね。日本でいうと2002年10月に金融再生プログラムと、非常に評判が良くなかった政策なのですが、資産査定を厳しくすることによって金融機関の資産内容を全部洗い出す。ストレステストというのは、最悪のケースを考えながら損失を最大に見積もり、その損失によって自己資本、金融機関の自己資本が不足した場合は、公的資金を注入することによって安全だと。つまり、証券化商品を持っていても大丈夫、不良債権を持っていても大丈夫だというチェックです。
この教訓から、今回の新型コロナの対応策、情報を考えると、一番必要なのはウイルスチェックです。ウイルスの検査を広範囲にやって、この地域は大丈夫だと、北海道、東北、九州、それぞれ感染状況が違いますから、地域ごとに感染状況を随時チェックした上で、安全宣言とはいかないでしょうが、安全確認を随時、つまり安全か危険かというその間のグレーゾーンがあると思うのですが、そこを切り分けて判定していくような措置が日本版ストレスチェックというか、不確実性への対応になる。
学術的な話でいうと、不確実性の反対用語は何でしょうか。これは「予見可能性」です。人々が予想したときに、「このぐらいだな」ということが分かる事。今回も、新型コロナがいつ収まるのかというのは不確実です。私の説明でも言いましたが、2月末に思っていたよりも、3月上旬の方がもっと先は厳しいだろうと中小企業事業者が思うようになっている。そこで、政府や公的な機関が予見可能性のある見通し、感染者の増加数に関しては3月の中旬でピークアウトし、4月の末にはおおむね終息する。それはどこどこの地域とどこどこの地域とどこどこの地域では蓋然性が高い。それが外れたときは再び計画を練り直せばよいわけで、そのような道筋を見せることが今回の不確実性に対する対応策ではよいのではないか。経済学的な視点から、そういうことが言えると思います。
全国労働組合総連合事務局長 野村幸裕氏
私の方からは3点申し上げたいと思います。1点目は、そもそもなぜこれだけ不安が拡大するのか。国民が自らの将来の人生設計、経済設計、生活設計ができない、今のそのような経済状況にあるのではないかということです。したがって、目先の不安がそのまま将来の不安につながってしまう、このことが非常に大きな要因だ、とすれば、財政的にも、行政的にも、あるいは政治的にも、それぞれの国民が自らの人生設計が可能となるような賃金あるいは社会保険をきちんと設計し、国民に強いメッセージを伝える。このことが不安解消には重要だということです。
二つ目は、正確な情報として何が一番欲しいか。それは、今はどの段階なのか、そして、それがいつどのように変化をし、ここでこういう対応を取ればこういう形で解決しますよという、そのような具体的な現状に関わる分析と将来予測、これが必要ではないか。だからこそ、専門家委員会などでの率直な議論、及び私はもう一つ、厚生労働省の人たちの多くの情報、この情報が民主的に、行政の民主主義の中で生かされていないのではないか。どこかにネックがあるのではないか。そのネックを取り除いて、そういう現場の声が適切に反映する、そしてそれが国民に開示をされる、そういう情報が必要だと思います。
そして、何よりも重要なことは、限界はあるとしても誰もが検査できるという状況ではないか。これをどういう形で検査ができるのか、安心できるのか。この安心できる検査体制を確立し、一刻も早く国民に伝え、みんなが検査をする。今回は潜伏期間が長い、かかっていても発症しない、非常にダークな菌が原因となっています。ダークな菌であるならばこそ、その検査体制を確立すること。
そして、もし検査キットを作った企業が作り過ぎて過剰生産になったら、その分は国が買い上げて、今後のまたこういうときに対応するために活用するなど、多くの知恵を、関係の行政や企業と一緒に考えていく、そういうことが重要なのではないかと考えています。
山田
ありがとうございました。
熊野先生にお伺いをいたします。先生が書かれた「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」という本も読ませていただきました。先ほどおっしゃった不確実性とリスクのマネジメントの話が書いてあって、リーマン・ショックのときには、ほとんどの企業が先行き不安になって投資に慎重になったという話もこの本の中にも書いてありました。
私がそれを見て思ったのは、これまでもSARSとかMERSとか新型インフルエンザとか、様々なこういった感染症が起こっており、それを不確実なものということよりも、こういった感染症について、もっと地域社会、社会全体が過度に不安にならずに、過剰に警戒しないように、先ほど東日本大震災の際の自粛を最小限にしようという運動になったというお話もありましたけれども、こういった感染症に対しても対応できるような社会をつくっておかないと、対応・対策は必要なのですが、過度にならないようにするために、そういった仕組みを社会の中に学習して取り込めることがあるのではないか思うのですが、その点についてどのようにお考えでしょうか。
株式会社第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 熊野英生氏
私の著作を読んでいただいて大変ありがとうございます。そこに書いていなかったかもしれないですが、不確実性とセットになる言葉は「疑心暗鬼」なんです。質問は、疑心暗鬼をどうやったら解消できるかということですが、これも日本の不良債権問題、海外でもいいんですけれども、ここに一つの解があります。ディスクロージャー、情報提供です。つまり、感染症という未知なるものに対して、これは、政府も、医療関係者も未知のものかもしれません。そういうときには、その分からないものを公開してみんなで考えていくと。
日本人には学ぶという非常によい文化、カルチャーがあります。つまり、政府あるいは公的機関が情報を提供すれば、知っていることを全て提供するとそれで理解していくんですね。つまり、政府が仮に分析結果を出さなくても、民間の間あるいは民間の研究者の間で見解がいろいろ出てくると。
恐らく、感染症というのは初めての経験、「バブルは別の顔をしてやってくる」という本を別に書いているのですが、感染症も多分、MERS、SARS、別の顔をしてやってくるのですが、でも、新しいものが出てきたときに、前の経験のときに学んでいれば新しいものに対する免疫はそこで付いている、この免疫が恐らく疑心暗鬼を解消するのに非常によい。ですから、学ぶことをみんなでやると、その前提になるのは情報提供だと、これが疑心暗鬼対策として有効だと私は考えます。
山田
ありがとうございました。もう一問、熊野先生にお伺いをしたいと思います。
昨日から中国、韓国からの入国の制限が行われてきて、もう観光客だけでなくビジネスマンの行き来もしづらくなってくる。それから、日本企業の中には、韓国や中国からのそれぞれ部品や、そういったものが調達できなくて非常に困難に陥っているところもある。これは、工場の進出、あるいは部品調達などを中国に一極集中しないで、東南アジアに移ったらどうか、あるいは日本に回帰をしてほしいということも出ています。それで、企業の日本回帰について熊野先生にお伺いをしたいと思います。
私自身は、日本の産業の空洞化が進むということを阻止する観点からも、できるだけ日本に企業が帰ってきてもらう、あるいは工場が日本に帰ってきてもらうというのは非常によいことだと思っています。一方で、これも先生の著作、昔書かれた著作の中でありますが、そのサプライチェーンを変更していくとか、あるいは人件費などが高く付いて、なかなか日本に回帰をするというか、あるいは工場が海外に出ていくというのは避け難い、企業の論理からするとなかなか避け難いということで、その空洞化、産業の空洞化を防ぐのは実際にはなかなか難しいのではないかということも書かれているのですが、一方で、こういった様々な危険に対応する意味では国内に産業があった方がいいと思っているわけです。
そういう意味で、国内に回帰をしてくるという可能性と、条件があれば帰ってこれるのではないか、そういった観点からお考えをお伺いできたらと思います。
株式会社第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 熊野英生氏
ありがとうございます。今の質問を私なりに整理すると、今回のコロナ対策で止血と復旧と復興があるとすると、おっしゃっている御質問は、復興のアイデアについての質問ではないかと思います。
まず、サプライチェーンの話から、2011年の話、震災のときの教訓を言うと、あのときは車載用の半導体が調達不能になって世界的にサプライチェーンが止まったのですが、その後どうなったか。自動車産業は、3か月間の生産は震災前より大きく落ち込んだのですが、2011年の秋ぐらい、10~12月には元の水準より右肩上がりになって成長していきました。そのような意味ではサプライチェーンの停止というのは恐らく3か月ぐらいだと思います。今回、農民工が三億人都市に戻ってないので、どのぐらいになるか、まだマグニチュードは分からないのですが、自動車の例で分かるように、右肩上がりの成長が描ければ、自動車産業のように、復旧した後、復興に戻っていけるにではないかと思います。
もう一つ、国内回帰の話ですが、恐らく、これは日米の貿易戦争からもう既に中国一極集中を見直し、ベトナム、ミャンマーあるいはタイなどへの分散が起こっていて、そういう意味では、今回も恐らく、確か東日本大震災の後、経済白書のアンケートでは三割の企業が分散、生産拠点の分散を考えるというふうに答えていたと思うのですが、それと同じことが起こる。そういう意味では、日本に回帰せずにベトナムやミャンマーに行く代わりに日本の魅力を高めないといけない。これは恐らく教育水準だと思います。
私の出身は山口県で、地元の山口の工場回帰ということも関心を持っているのですが、なぜ企業が地方に進出するかというと、優良な労働力が確保できて、そこで研究開発あるいは付加価値を高めるようなことができる。海外でできないような国内にいい人材が集まれば、それは地方に工場立地が進むあるいは国内回帰が進むチャンスになるので、教育水準を上げ、地方大学とかが企業とコラボレーションを取りながらいい人材を育てていくということが一つの回帰の条件ではないかと思います。
山田
ありがとうございました。終わります。