平成27年6月10日 国際経済・外交調査会

平成27年6月10日、国際経済・外交調査会が開催されました。
今回は、「我が国の経済連携への取組の現状と課題」とくにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について参考人から意見を聞きました。参考人は、みずほ総合研究所株式会社 政策調査部上席主任研究員 菅原淳一氏、NPO法人 アジア太平洋資料センター(PARC)理事・事務局長 内田聖子氏及び、慶應義塾大学経済学部教授 金子勝氏の3名です。各参考人の意見聴取の後に、質疑を行いました。
なお、正式な議事録については参議院ホームページ「会議録情報」をご参照ください。


 山田

2つ質問がある。まず、参考人お三方にお伺いしたい。米国のケリー国務長官とカーター国防長官が「アメリカにとっては、安全保障の面で中国とアジアで闘っていくためにTPPをやらなくてはいけない」という趣旨の論文を書いている。別の論者は、AIIB(アジアインフラ投資銀行)ができて、アジアが中国ベースの経済圏になってしまうことに、対抗するためにTPPが必要だと言っている。このことについてどのように思われるか、お聞きをしたい。
アメリカにとっては確かにそうかもしれないが、日本はTPPも、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)も、日中韓FTAもおこなっている。そうであれば、安全保障やAIIBよりも、日本にとって、いい経済圏をつくっていく、中国を引き入れた国際市場をつくっていくことをどのようにやっていくか、ということが一番大事だと思う。その辺についての御認識をお聞きしたいのが第1点。
2点目は、内田参考人と金子参考人にお聞きしたい。TPPについて問題点を指摘されている。私も元々、TPPにはいろいろ問題点があるという点で議論をしてきた立場である。最近の政府の対応では、例えばISDS(投資家対国家間の紛争解決条項)についても、濫用を防ぐような交渉を今やっているとか、問題が起こらないようにやっている等、なかなか議論がかみ合っていかない。
そのような状況の下で、どのような結果になろうが、やはりここは問題だということがあれば、お話をしていただきたい。

みずほ総合研究所株式会社 政策調査部上席主任研究員 菅原淳一氏
AIIBや中国の問題ということかと思うが、例えばTPPとAIIBは、これは相互排他的なものでは当然ないし、互いにぶつかり合っているものでもないと考えている。
また、基本的にはルール作りをめぐる競争と協調の時代で、競争が起きているというのも確かだと思うが、御指摘のあったように、日本はTPPにも参加し、RCEPにも参加し、日中韓FTAも進めているという状況であるので、これはやはり三つを整合的に協調させてやっていかなくてはいけない。したがって、日本としてはこれを、例えば中国封じ込めといったような捉え方はすべきではないし、実際にはしていないと思う。
むしろどのようにして、日本が主導してつくり上げていくアジア太平洋の経済秩序の中に中国を招き入れていくかということを考えていくことが重要だと思っている。

NPO法人 アジア太平洋資料センター(PARC)理事・事務局長 内田聖子氏
1点目の件について。アメリカ政府は交渉を早く妥結したいので、様々な側面から、TPPはいいよということや、先程紹介した、これはアメリカがイニシアチブを取るために必要だという、様々なアピール活動をUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)、それからオバマ大統領自身も、今年明けて以降は、ありとあらゆるアピール合戦をしている。その中で、先ほど紹介した発言が出てきて、この発言だけではなくて、少し前からそのような安全保障と一体論というのか、出てきている。
ただ、この問題は、貿易と安全保障と別問題なので、私は分けて議論するべきだと思うし、率直に申し上げて、雇用が増える等、様々なメリットをオバマさんがアピールしても、それは国内からすれば即座に反論されて、もう切るカードがなくなる中で、安全保障にも重要だというような、言わば苦し紛れのアピールという面が強いと思っている。
AIIBなどに関してのコメントは、もちろん中国との関係を日本はきっちりと付けていかなければならないと思うのだが、やはりTPPの枠組み自体が、中国の側から見ればどのように映るのかということを、我々は認識しておくべきである。
アメリカにとってみれば、TPPは対中国の戦略として位置付けられているので、そこに日本が入っていて、中国も今後TPPに入るのかは分からないが、私は、日本という国はアメリカと一緒になっていろいろな面で進めていくのだなと認識されているのではないかと思っている。まずは、歴史認識も含めて、きちんとした外交関係を中国と取り戻していくということが必要だと思う。
それから2点目、私は、中身の問題を議論する以前に、秘密交渉であることが問題だと思う。非常に厳しい保秘契約が交渉参加前に契約書という形で取り交わされて、しかもその契約自体の中身ですら私たちには教えてもらえない。つまり、何と何が秘密にされていて、秘密を破ったらどうなるのかという契約の中身、それ自体も分からないという交渉の在り方は大問題だと思うので、まず入口の段階で、絶対にこれは受け入れられない問題だと思っている。
TPP交渉は高度な自由化だから、前提として関税は撤廃である。元々WTOは関税の削減交渉だった。それぞれが交渉の中で歩み寄っていくところを目指していたわけだが、それではうまくいかないので、TPPでは極端な自由化に元々の目的が設定されているのだ。だから、最終的に関税は全てなくせという議論の土俵にのるということである。もちろん、ISD等、様々な中身の問題はあるが、前提としてはその2点である。

慶應義塾大学経済学部教授 金子勝氏
リアルな現実政治としての認識としては、明らかに全体として成長しているアジアを中国が取り込むのかアメリカが取り込むのかでせめぎ合いが起きているという認識だと思う。
大恐慌以来の百年に一度の経済危機で、今アメリカが金融緩和の縮小をしたことによって、中国、ブラジル、アルゼンチン。インドは若干持ち直しているが、それからオイルがそれでおっこって、ロシアが駄目になってEUもデフレに入りかけたりしているという、とても長い停滞の時期に入っている中で、世界中の中央銀行が、政策金利がゼロで、じゃぶじゃぶに金融緩和しているという、まさに異常な歴史的な転換期の中で勢力争いが起きている。戦前は、これはブロック経済だったが、だからそのようなリアルな認識はやはり持つ必要がある。
その上で、日本はどっちに付いていくかという発想を取らないことが戦前の教訓を踏まえることだ。そうすると、自国が主導して道義的な主張、例えば安全や環境のルールについても、もし交渉で加わるのであれば、道義的に自分たちの正義をむしろ堂々と主張しているように見えないことが問題だ。今の状況では考えにくいが、TPP以外に、日米FTAの選択もあり得たわけで、そうすれば一割ぐらいのゆとりがあったわけである。そのような幾つかの選択肢を自ら摘んでしまっているのは、日本の自立した判断と道義的な正義を主張していないからだと私は思っている。
もう一つは、ISDSを防ぐ手段というときに、現状で最低限考えられるのは、過去、北米自由貿易協定、つまり適用される国が、法整備が整った国にも行われるようになるのであれば、裁判制度がアメリカ国内で裁判手続が行われて、相手の国を企業が訴えて相手の国の制度やルールを変えるというのは、明らかに一つの国が別の国の主権を侵していることになる。
もし、そのようなISDSに関して調停のルールを作るのであれば、フェアに、アメリカ国内ではなく第三国、あるいはアメリカ国内にあっても運営する主体が、きちんと全ての主体がコミットし、フェアな人選とフェアな透明な運営ルールが最低限確保され、そして裁判手続に至らない場合でも、紛争処理機関が、手続がしっかり形成されるべきだと思う。ところが、そのような機関の形成がないまま強行することは、事実上アメリカのルールを押し付けるのと同じことが起きると判断して間違いない。
もし、日本の政府が正当に自分の自主的な判断と主権を持っているならば、このTPPに関して、ISDS条項を実行するに当たって、全ての国が納得するフェアな国際的な処理機関をつくるべきである。そのような人選や制度やルールについてきちんと話し合ったという形跡が見られないのと、国際的に自らそのような主張をしていないので、私は懸念が現実化すると考えている。

山田
ありがとうございました。